London Underground Busking・ロンドンアンダーグラウンドバスキングって?
街中の至る所で、バスカーが奏でる音が聞こえてくるロンドン。
バスキングは人々にとってもごく普通で当たり前の、日常的な風景のひとつとなっています。
ロンドンのミュージシャンにとって、バスキングは誰もが経験する道でもあります。
しかし、公共の場でのバスキングは、公的に認められているわけではありません。
街に音楽が流れ、人々の心を和ますバスキング文化の裏で、ロンドン市は市民からのクレーム、騒音トラブルなど様々な問題を抱えていました。
特に、雨を凌ぐことのできる地下鉄構内はバスカー人気が高かった事で、演奏場所の縄張り争いが絶えず、バスカー同士の争い事は深刻な問題となっていました。
そして、2003年。
通称Tubeと呼ばれるアンダーグラウンド(地下鉄)で、国公認の音楽プラットフォームを設ける事に。
それらピッチでのバスキングは許可制とし、ライセンスの取得が必須条件となりました。
厳しいオーディションを突破したもののみ、公式ピッチでのバスキングが認められる制度は、身近なバスキング文化を求めるバスカーからは受け入れ難い制度でありながらも、バスカー等の場所と演奏時間が確実に確保できるという意味では、画期的なシステムでありました。
ロンドンアンダーグラウンドのバスキングシステムは、バスキングのライセンス制度としても、観光名物としてもポピュラーであり、音楽プラットフォームとしてバスカーにも大変人気です。
その後も、イギリス国内で様々な場所でのライセンス制度が設けられ、バスカー達の音楽は至る所で流れ続けています。
ライセンス制度で安全と場所を確保されたバスカー達ですが、同時に「自由である本来のバスキングスタイル」が消えたことを惜しむ声も。
バスキングのライセンスに関しては、以下の記事でも軽く触れています。
より詳しいロンドンのライセンス制度に関しては、以下の記事をご参考ください。
アンダーグラウンドにライセンス制度ができるまで
ロンドンの市民の移動手段として愛用されている通称Tubeこと、アンダーグラウンド(地下鉄)。
市民の足として身近な存在の地下鉄で演奏をすることは、人々の目にも止まりやすく、チップも比較的入りやすい場所としてバスカー達に人気でした。
また、通行人たちも、出入り口や、ホーム付近で耳にするバスカーの奏でる音楽に癒されながら、1日が始まり、1日を終える・・・そんな環境の中で暮らしていました。
そんな中で、陰なる問題も多発。
バスキング活動に好意的では無い市民からのクレーム以外に大きなトラブルとなっていたのが、バスカー同士の縄張り争い。
バスカー同士の演奏場所の”縄張り争い”問題
「チップの入り」が良い場所、時間帯というのは、確実に存在します。
その定義に気づいた者や、場所の噂を聞きつけた者は、「おいしいピッチ」で演奏したいとその場所へ押しかけます。死活問題でバスキングしている人も多いので、当然です。
しかし、人気のあるピッチを誰かが先に演奏していたとします。
そのバスカーが延々と同じピッチでバスキングを続け、まったく場所を譲らないとなると・・・まさに独り占め状態。
そうなると、ピッチは早い者勝ちです。
仮に、新顔が朝イチでそのピッチを確保し、バスキングをしていたとしても、「誰だお前は?」「ここは俺の場所だ!」など、いわゆる「因縁」をつけたりと、争いになり兼ねません。
なぜそこまでの問題になるかというと、チップの入りが良い場所、悪い場所というのは、雲泥の差があるのです。
場所によって具体的な数字を出すのは(それぞれの楽器や演奏スタイルによっても大きく変わるため)難しいところですが、例として、2時間演奏して500円の場所と、1万円の場所・・・というくらいの違いだと思ってください。
これは「一例」なので、時間帯によっても、大して変わらない時や、さらに差が広がることもありますので、あくまで参考までに。
しかし、場所ひとつでそれだけの差が出てくるからこそ、バスキングを生業としている者や、日銭を稼ぎたい者、死活問題として暮らしている者にとっては、争うほどの問題になってくるのです。
そこで、バスキングと言う文化を残しながらも争いをなくすために、ロンドン市はライセンス制度を設けようと言う事になったのです。
以来、時間、場所、誰がどのピッチで演奏するなど、アンダーグラウンドでのバスキングは全てマネージメントによって管理されるようになりました。
煌びやかなバスキングバブル時代と、その崩壊
しかし、2008年の7月、ロンドン市より突然のエージェント解体指令。オフィスマネージャーの中には、突然の解雇に泣き崩れる女性もいました。
本当に、突然。何日前か?というくらい、突然の通達です。
バスカー達とエージェントのスタッフは、とてもフレンドリーで良い関係性を保っていましたし、スタッフもバスキング文化や音楽発信に本当に力を入れていたので、突然のマネージメントを失った我々バスカーと同様に、エージェントスタッフの思いも相当なものであったと思います。
バスキングのマネージメント管理を失い、はっきりとした活動基盤が無くなってしまったバスカー達の中には、路頭に迷う者や、転職する者もいました。
そこで、手を差し伸べたのはロンドン交通。
当初よりバスカー事業に深く関わっている、まさに許可を与えている側の方達です。
彼らは正式なマネージメントとして管理部署を持ち、バスカー達のスケジュール管理やライセンス発行などの全ての業務を行う事になりました。
エンターテインメント業界のスタッフとはまた違うスタイルでの新しい管理システムに、当初は戸惑うバスカーも多かったものの、彼らが手を差し伸べたおかげで、バスキングピッチの無法地帯状況は夏を乗り越えた頃には回避され、バスカー達は、心に余裕を取り戻しました。
しかし、不運にも、リーマンショックの波が重なり、バスキング文化そのものが次第に沈静化。
バスキングのチップは、通行人の方々との気持ち(環境や社会背景)に常に比例しているものですので、チップの量も俄然少なくなりました。
エージェントが新体制に変わり、心機一転も束の間。
2008年の7月の前エージェント解体後から始まり、その年の後期は、バスカー達にとって再び物事を考えさせられる時期となりました。
バスキングという生業を続ける者、違う道を志す者に分かれた分岐点であったと言えます。
*追記:バスキングバブル時代の思い出話・戯言をアップしたので、興味ある方は以下の記事をご覧ください。(重複内容あります)
広がり続ける公式バスキングの世界
日本でも、ストリートパフォーマンスの活動をバックアップする公式システムとして、東京都がライセンス制度を取り入れていますよね。
ジプシーのように、流れるように行き着いた土地でさらりと演奏し、日銭を稼いでまた旅をする・・・
そんな、バスカーの原点であるシンプルでアナログの時代は、各国の都市ではなかなか見ることも少なくなって来たと思います。
ライセンス制度を取り入れている街は多く、また、バスカー達にとって、不安定な生業とも言えるバスキング業。
場所や時間だけでも確実に確保できるライセンス制度は、保証の無いバスカー達の「心の保証」でもあるのでしょう。
ロンドンのライセンス所持バスカーの間では、以前はメールでのグループ送信、現在ではSNSを使ってのコミュニティーページを持ち、ブッキングしたピッチを譲り合ったり、演奏するピッチに影響を与えるかもしれない交通状況情報のいち早い連絡など、情報交換を行っています。
また、近年になり、改めてバスキングの観光アピール的要素を見直したロンドン市は、各ライセンス団体と一丸となって、ロンドンのバスキング活動をサポートしています。
一時期の衰退から持ち直しを謀るかのように、年々増えていくバスカー達をバックアップ。とっても良い傾向と言えますよね!
しかし、バブル期、不遇の時期を一周し、ここへ来ての、若きロンドナー達が持つ「バスキング」の印象とは、すでに何年かかけて出来上がった現在の体勢が全て。
古来からのフリーダムな「流し的」要素はかなり薄れ、バスキングとは、プロモーションであり、管理下で行うものというイメージに大きく変わりつつあります。
それは、テクノロジーによって音楽の発信が「ライブ」から「ソーシャルメディア」に移っていったのと同じように、本来のバスキングという形が変わっていくようにも見えます。
行き当たりばったりで路上で演奏していたのも昔の話し。
アナログライブ・ミュージシャンの原点であるバスカー達も、今の時代ではまさに、テクノロジーの発展によって、演奏場所のみならず、仲間達との和と平静が守られているのです。
「ロンドンアンダーグラウンド」というブランド力
ロンドンの地下鉄のマークは、有名ですよね。
トップ画像のマークです。
イギリスのお土産ショップでは、このマークを用いたプロダクツも沢山あります。
イギリスのプロダクツの最大のヒットデザインは、イギリス国旗であるユニオンジャックそのもの、とはよく言われる話しですが、ユニオンジャックしかり、アンダーグラウンドのマークしかり・・・
そして、ビートルズのゆかりの地である、アビーロードやセントジョンズウッドのみならず、オックスフォードストリート、ピカデリーサーカス・・・など、有名な大通りの名前のストリートプレートも、プロダクツとして販売されています。
ただのストリート名のはずなのに、なんだかカッコイイ気がするから不思議です。(笑)
アンダーグラウンドのマークをモチーフにしたプロダクツは、Tシャツやマグカップ、ステッカーなど様々ありますが、以前に、このマークのワッペンを貼り付けているギターケースを背負った女性を見かけました。
ふと、同業者(バスカー)かな?と思ったところ・・・
とあるブルーズバーで、彼女が演奏している姿を発見。
と、いうのも、ギターケースが印象的だったので覚えていたのです。
演奏後、すかさず「もしかしてバスキングやってる?」と話しかけに行きました。
彼女はバスカーではなく、音楽バーなどで弾き語りをすることで生計を立てているそうで、この日はブルーズバーに「売り込み」に来て、そのままお試し演奏をさせて頂いたのだとか。
ギターケースのワッペンについては「マークがカッコイイから」との事でした。(笑)
しかも、純粋なイギリス人!
母国の日常的に見慣れたマークを溺愛するのって、微笑ましくていいなあと思いました。
そう、アンダーグラウンドには、このマークの威力と、その名称のブランド力というのが半端ないのです。
アンダーグラウンドマークの威力とは?
「アンダーグラウンド」という名称を推し出したバスキングシステムは、世界でも有名なバスキングピッチのひとつとして、ロンドンの観光名物にもなっています。
バスカー達がバスキング生活を維持せんとするその人気の秘密も、このブランド力もあるのかなあと思います。
ちなみにライセンスは、このマークが大きくデザインされており、演奏中に各ピッチの管轄スーパーバイザーオフィスへ提出する用と、バスキング中の現場提示用、2枚が与えられます。
現場では、ポリスの巡回が多いため、提示を求められる場合もあります。そのため、本来は首にかけて演奏するのですが・・・ギターケースなど、見える場所に提示してあるバスカーがほとんどです。
これを持っていたり、見せたりするだけで「地下鉄関係者?」というような匂いがするので、安定と安心感を醸し出すような感じがします。
しかし、身分証明書としては効果はありません。
以前に、IDを持っていないときにID提示の必要があり「これじゃダメ・・・?だよね?笑」とチラリと見せたところ、もちろんIDとしては使えないのですが、「えっ!?地下鉄の人?」と驚かれたことがあります。
ちなみに、地下鉄(ロンドン交通)とは全く無関係で、会社の人間である証明ではなく、彼らの管理下にあるバスカー達、というだけです。
よく質問されるのですが、この証明書を使って無料で地下鉄に乗ることはできません。
バスキング業務中であれど、バスカーである特権を使って移動に地下鉄を利用することなどはできません。前述の通りに、会社の人間ではありませんゆえ。
バスカー皆、普通にオイスターカードの通常料金で交通を利用しています。
云うなれば、ピッチの公認以外は、特典としては別段何もないんですよね。(笑)
しかし、ブランディング力としては、バスカー達にとってはポジティブなものである事は確かかもしれません。
世界各国からロンドンに訪れてくる旅行客からも、アンダーグラウンドでバスキングをしているだけで記念撮影のリクエストなどが絶えません。
ただ、真向と完全フリーでバスキングを行なっている生粋のバスカーからは「所詮は守られているただのパートタイマー」と、笑いながらも皮肉を言われる事も。
ちなみに、非ライセンスバスカーである(上記の皮肉を時に言う)知人のバスカーは、ライセンスバスカーのトップクラスのチップ額の、2倍以上を稼ぎます。
それだけで家も建てまして。
なので、説得力あるんですよね。(笑)
ブランドなんてない方が、より開放し、より自由に、本物の演奏を出来るのかもしれません。
まとめ
今回は、バスキングピッチとしても有名な、アンダーグラウンドとバスキングの歴史についてを少しお話しさせて頂きました。
イギリス・ロンドンに旅行した事のある方なら、必ず目にしたであろう、ストリートミュージシャンやその演奏風景の数々・・・
そう、それがアンダーグラウンドバスキングであり、彼らが公式バスカーなのです。
交通手段の移動で使う地下鉄ゆえに、目にする事が多いアンダーグラウンドバスキングですが、バスキングは場所にかかわらず、至る所で行われています。
将来的に機会があれば、交通機関の周辺だけでなく、広場や街角や、目抜き通りなど、ぜひいろんな場所で流れる音楽に耳を傾けてみてください。
そして、ロンドン文化のバスカー達を沢山みつけてくださいね!
最後までお読み頂き有り難うございました。