ロンドンのライセンス制度
バスキングの文化が盛んなロンドン。
バスカー達が演奏するピッチには、ライセンスの取得が必要な場所がとても多いです。
もちろん、ライセンスが無ければバスキングが出来ないというわけでは有りません。
その場合は、周囲に迷惑がかかるような場所ではないこと、黙認されるべく違法ではない場所、バスキング中のトラブルは全て自己責任で行う事が前提です。
そして、バスキングは路上で演奏をする事です。そこが公共の場であることを忘れてはいけません。
そんな中、ライセンス制度というのは、普段から孤独に戦うバスカーにとっては唯一の護身のようなもの。
演奏場所や時間が定められており、そのピッチが公式である事で、最低限の安心感を得られます。
*但し、ひとりで現場に立つことには違いないので、現場のトラブルはやはり自己責任になります。
ライセンスを取得するには、オーディションを突破して合格しなければなりません。
その他にもいろんな縛りが存在します。
ここでは、イギリス・ロンドンのバスキングライセンスについてご紹介します。
バスキング場所によって発行ライセンスが違う
国によって定められた、アンダーグラウンドの公式ピッチで演奏できるバスキング・ライセンスの他、鉄道の指定ピッチ、公園や広場、公共施設など、場所によってライセンスが違います。
「その場所・管轄専用」となるのです。
自分が取得したライセンス管轄以外の場所でバスキングをやると「違法バスキング」になります。
また、演奏楽器やパフォーマンスによっても異なります。「実際に行うパフォーマンスで」ライセンスを取得しなければなりません。
例えば、筆者は「Guitar」としてライセンスを取得しました。(弾き語りも含みます)
このライセンスで、フルートを演奏すると、これももちろん「規約違反」になるのです。
以前はジャンベでバスキングをしていたのに、ある日突然、ギターで弾き語りをするバスカーに変わっていた友人がいます。
ライセンスを再度、ギター演奏用に取り直したそうで、ジャンベ用とギター用の、2枚のライセンスを持っているそうです。
それもいいですね!(笑)
また、バスキングピッチに持ち込む機材の申請も、ライセンス取得時に必要です。
アンプ使用の場合は、「アンプ使用」と許可を得ておく必要があります。
例えば、カラオケを利用して歌を披露するバスカーもいますが、その場合は、トラック使用のために使うオーディオシステムを持ち込む旨を申請しておかなければなりません。
市民への影響を考え、場所によっては適度に音量制限を設けているピッチがあるのです。
アコースティックギターならば演奏OKだけど、エレキ(アンプ使用)はNGとなる場合もあるんですね。
バスカーの情報に基づいて、マネージメントはブッキングしていくため、アンプを使用するバスカーが、アンプNGのピッチをブッキングをする事はできないわけです。
また、機材を申請すると言うルールは、演奏によるピッチ周辺の環境を考えてと言う事だけではなく、テロ対策の意味も含まれます。
数多くのバスカーを抱えたマネージメントは、無断で持ち込まれる機材が何なのか、全くリスクがないとは言い切れないので、本人からの申請と確認を万全に行うことが重要となります。
路上でひとりで演奏しているんだから、少し楽器を変えてもわからないだろう、なんて思うかもしれませんが・・・
やはり、規則は規則です。
誰も見ていなくても、ルールを守らないバスカーがひとりでも出てくれば、秩序は乱れ、無法地帯となる事だってあります。
演奏を続けたいと願っているバスカー達だからこそ、ルールやマナーには真摯に向き合っているのです。
あと、ロンドンでは至る所でポリスがよく巡回しています。
もし、ライセンス必須のピッチで無許可で演奏をしたり、ライセンス所持者であっても、気を抜いていると「君、ライセンスある?見せて。」と、バスキング演奏の途中に質問される事だってあります。
筆者もよくポリスに質問されるんですよね。怪しいのでしょうか。(汗)あと、管理マネージメントのボスにもバスキング中に何度か遭遇したことがあります。(笑)
悪いことはできませんよ〜!
厳しいオーディションがあるんです
バスキングのライセンス取得には、オーディションがあります。
ここでは、アンダーグラウンド・ライセンスの例でお話ししますね!
オーディションは不定期に行われますので、正式な募集時期というのは公開されていません。
2008年以前は、年に1度開催されていましたが、現在は2年と募集をしない時もあるそうです。
オーディション開催の際には、地下鉄構内で手に入れることのできるフリーペーパー「Metro」に、募集の旨が大きく掲載されますので、気になる方は、マメに新聞を読む事をしていれば、英語に慣れる事も出来る上、情報ゲットもできます。
実際のオーディションプロセスをちょっとだけご紹介
現在行われているオーディションの内容詳細はわかりませんが、筆者が体験したオーディションは、以下のような段取りでした。
①インターネットから申請(本人詳細に加え、申請したいバスキングスタイル、写真、Website、リリース歴、デモ音源を数曲提出)
②書類審査に約7ヶ月(実技審査までの期間なので、厳密には5ヶ月くらいかも)
③合格通知が届き、実技審査へ
④複数審査委員を前にリアルな地下鉄ホームで演奏(すでに閉鎖された駅を使用)
⑤合格通知が届き、必要な公的書類を提出。国際警察のチェックへ
⑥国際警察の調査待ち数週間
⑦再度、正規の合格通知が届きエージェント・ミーティング参加
⑧晴れてライセンスが発行され、公式バスカーデビュー
申請から取得まで、約10ヶ月かかりました。
・・・と、言っても、書類選考結果を待つ時間にほとんど費やされ、実演等に移ってからはトントン拍子に進みました。
とにかく、エントリーする数がとっても多く、それら書類に目を通す事と選考する事に時間がかかるという事でしょう。
この時の合格率は30%との事。
オーディションの選考基準は内部の人間でないとわかりませんが、周りにも書類選考すら通らなかった人も多く、実技審査で落とされた人もいます。
その時の楽器の枠(バスカー数)にも関係しているかも?しれませんし、していないかもしれません。
とにかく、ライセンス取得は難しいと言われています。
人気のオーディションなので、なんと言っても難関が書類選考ですね。
予想ですが、書類選考基準として選考委員が厳しくチェックしているのは、音源、その次に音楽キャリアだと思われます。
ルックス、年齢、これは全く関係ありません。
老若男女、とにかく様々な人に最終審査で会いましたし、合格後の面子も様々でした。
感じたことは、合格者のほとんどの方が既にプロ、またはプロとしてのキャリアを持つ人が多かったこと。キャリア必須というわけではないと思いますが、まず音源が良いのではないかと思います。
また、いきなり途方もない数の人々の前でアンダーグラウンドの看板を背負って何時間も演奏するわけです。そのバスキング時間だけ取ると、1日2ステージのツアーを毎日毎日1年中やるのと同じ。特に私が取得した当初は、キャンセル=ペナルティの時代でしたから、一定時間をこなさないとライセンスを落とすような頃。
めちゃめちゃ高貴な表現をすればウエストエンドの舞台キャストを決めるのと同じです。(ウエストエンドの公演は連日の長期間ですよね)全くの未経験では演奏以前に体力が過酷で合格してもすぐに辞めてしまいます。
キャリアのある人の方が無難・安心して任せられるだろうと運営側が考えるのではないかな?と、個人的な意見として考えます。
初心者でも相応の納得する提出物であれば問題ないと思いますし、それまでにバスカーとして所属していなかった「珍しい楽器奏者」や、他国などの「民族楽器奏者」「珍しい音楽パフォーム」の場合は書類は突破しやすいかもしれません。とにかく、ギタリストや弾き語りスタイル等の一般的によく見るバスキングで使われる楽器などは、極めて書類選考の突破は難しいと言えるでしょう。
前述に触れたように、バスカーにはプロとして活動している方が多いので、リリース歴などプロとしてのキャリアがあった方が通りやすいと思います。
筆者は、たまたま、この申請の直前にイギリスでレコーディングをし、リリースの目処が立ったところだったので、滑り込みセーフで良い音源が送れ、なおかつキャリアとしても書くことができました。(笑)
その音源プラス、弾き語りの音源を送りました。
もちろん、プロキャリアがなくても、演奏さえ素晴らしければ問題ありません。
演奏は並かな・・と、少し不安な人は、自分のキャリアを多少盛ってでも(嘘はいけませんが)書類選考を突破することを目指しましょう。
実技審査は、なるようになれと言う感じですよ!
最後は御上の個人調査で丸裸。悪いことはできません!
少し怖そうなのは、国際警察のチェックですが・・・
普通に生きている人であれば、問題ありません。
現ニートでも、私生活がちょっと乱れているでも、学校でやんちゃだった方でも、元ギャルでも元ヤンでも、それらが「ただのやんちゃ」や「見た目だけ」であれば、問題なし。現在仕事をしていないにしても、過去の歴がクリアーであれば大丈夫です。
クリアーの意味はおわかりですよね!
英国、母国に関わらず過去に法に背くことをしてないこと、役所に罰されるような行いをしていないことです。
ライセンス取得前も、取得後も、バッチリ見られています!
バスキングという行為が公共の場で行われる以上、国は安全かつ真摯に「バスキング」という演奏行為を行えるバスカー人材を求め、そして管理し、街中に派遣していかなければならないのです。
街を行き交う人々に、音楽を届けるために。
そのおかげで、街には平和なバスキング時間が流れているのかもしれませんね。
パフォーマンスに合ったバスキングピッチを選ぶ
国によって定められた、ライセンス制度を取り入れている場所は、アンダーグラウンドの他、鉄道の指定ピッチ他、広場や公園など、色々な場所があります。
ロンドンで有名なのは、コヴェントガーデンの広場や、トラファルガースクエアのバスキングですよね。この辺りのバスカーが行うパフォーマンスは、公園や広場に訪れる家族や人々のニーズにあったバスキングをしていることが特徴です。
銅像の姿で立っている人や、パントマイム、アート系などのバスカーほか、演奏でも広場の遠くまで届くようにアンプを利用し、ステージ風に行っている方も多いです。
反対に、地下鉄などでは「音楽を響かせる」と言うコンセプトがありますので、ミュージシャンが中心となっています。
自分のパフォーマンスのスタイルに合ったバスキング管轄を見つけて、その団体のライセンス取得を目指すのがベターです。
地下鉄のバスカー募集にパントマイムで申請をしても、書類審査で落とされる可能性があります。
そのほか、地下鉄がいくらミュージシャン向きであっても奏者によって難易度も変わってきます。特に、ライセンスのオーディション突破が一番難しいのが打楽器奏者と言われています。
理由としては、地下鉄などの屋内では音があまりに大きい楽器は好まれないのです。
イギリスに来られた方ならわかるかと思いますが、地下鉄構内は広くて開放的な場所もあれば、狭い通路もあり、それら両方にバスキングのピッチが備えられてます。狭い通路の場合、通行人からしてみれば単純に「うるさい」となるわけです。
あらかじめ審査員もそれを前提でバスカーを選考してますから、書類選考時点で結構難しいんですよね。
ブログ冒頭で触れたジャンベでライセンス取得をした仲間も、書類審査の音源に工夫を凝らし、最終選考ではかなり音を控え目に演奏したとか。
それでも、実際にバスキングを始めてみると、全くチップが入らないので、ギター演奏でライセンスを取り直したのです。本人曰く「ジャンベの時より通行人からの反応が断然優しい」とのこと。
友人にバケツ・ドラマーがいるのですが、彼は逆に「ライセンスなんか不要」として、地上で黙認とされてる場所でバスキングをやっていますが、物凄い金額のチップを得ています。
野外の開放的な場所で演奏する事で音量の問題を回避し、そのユニークなパフォーマンス方法も受け入れられ、打楽器のバスキング成功例となりました。
ピッチ探しは環境を観察することから
ライセンスの取得に限らず、パフォーマンスのスタイルと、それに見合った場所でバスキングをすることが大事です。
イギリスでは、ライセンス制度もごく当たり前となってきましたが、ライセンスが無いからバスキングはNG!と言うわけでもありません。
ふらりと立ち寄ったミュージシャンがバスキングできるような場所もありますので、バスキング文化の盛んなイギリスで、ライセンスに拘る必要はないと思います。
自由こそ、本来のバスキングの姿ですからね!
自分のパフォーマンスが、そこで演奏することで周りにどういう影響を及ぼすかということを、しっかり考えた上でピッチを探すと良いと思います。
周辺に音が跳ね返りそうな壁や建物もないような広場のような場所ならば、アコースティックな演奏や控えめな楽器では、音が周囲にかき消されかねません。アンプを使用したり、歌手の方はマイクを使う方だったり、打楽器やサックスなどの音量の大きな楽器が向いてます。
反響音が大きく出る可能性がある場所では、アンプ類はマイクも含めて一切NGです。優しい音の弦楽器や弾き語りスタイルが向いてます。
忙しそうな市街地で演奏するならば、雰囲気を急かさないようなイージーリスニングとなるような楽器や演奏、曲のチョイスがベターであり、フライデーナイトなど人々が陽気になりパブに出歩く夜であれば激しいロック曲や、通りすがりに一緒に歌えるような有名曲が盛り上がります。
ライセンスの選考も、そういったところを含めて「場所に馴染むバスカー」をそれぞれの管理団体が求めているので、自身のバスキングのスタイルを把握した上で挑みましょう。
ちなみに、リヴァプールの目抜き通りである「マシュー・ストリート」も、ライセンス制度となっています。
こちらの選考基準は明瞭ですよね。
(想像ですが)ビートルズの曲の演奏が決め手となる可能性は高く、その表現を注視してバランスを取ってるのではと思います。世界から訪れるビートルズファンに喜んでもらえるような曲や、その時代を思い起こさせるものを選曲すれば間違いないでしょう。
筆者がマシューストリートでバスキングを初めてやった時は、まだライセンス制度が導入されてなかったんですよ。制度後にもバスキングを何度かやりましたが、役所で特別な舞台として手続きしましたが、そうなるとやっぱり「生粋の流し感覚」というものが薄れちゃうので、ライセンス導入となった時は(ああ、ここもそうなったか)と言う、寂しい思いが強かったです。
管理によって「バスカーが守られる」と言う意味では、良いことでもあるんですけどね。
ライセンスなんかない方がその文化自体に血が通ってる感がしていいのになー、なんて思ったり。
まとめ
今回はロンドンのライセンスと、アンダーグラウンドのライセンスエントリー詳細についてご紹介しました。
これからバスキングのライセンスを取得しようと考えている方や、他の国でバスキングをする方へ、何かヒントになることがあれば嬉しいです。
次回は、アンダーグラウンドのバスキングシステムの中身に迫っていきたいと思います。
ご一読ありがとうございました。