海外のバスキング
日本でも街中でよく見かけるようになった、バスキング。
そのスタイルは、野外ライブであったり、プロモーションのためであったり、趣味や腕慣らしだったりと様々ながらも、日常的に気楽に音楽を楽しめる文化として親しまれてきた様子がうかがえます。
では、海外のバスキングって、どんな雰囲気でしょうか。
ここでは、筆者のよく知るところの、イギリス・ロンドンのバスキング話しから、海外のバスキングの雰囲気を感じて頂けたらと思います。
バスキングをやるなら、まず覚えたいワード『Pitch』
まずは、この先もこのサイト内で多発することが多いであろう、重要なバスキングワードをお伝えしたいと思います。
バスキングを演奏する場所のことを、「Pitch(ピッチ)」と言います。
スポーツなどでもよく使われるので、ご存知のワードかと思いますが、バスカー達はごく普通に「今、どこ何処のピッチが空いているよ!」等、情報交換をしたり雑談します。日常的に「ピッチ」という言葉が会話に登場します。
海外でバスキングに挑戦しようと思っている方は、頭に入れておくと「えっ!?」と、ならないと思います。
ちなみに「Busking」だけでなく「Busk(バスク)」も街頭演奏をすると言う言葉にはなります。しかし、基本的には、バスカー達はバスキングというワードを口語で使う人の方が多いです。
たまに英語圏外のバスカーさんがバスクバスクと連呼してて、ピンとこないことがあります。
「I have busk today」ではなく、「I have busking today(今日バスキングやるんだ〜!)」と言う方がバスカーっぽいし、英語圏のセリフっぽくなります。
こちらは余談でした。
ロンドンのバスキング事情
日本人からみたバスキングといえば、自由で、なんとなく格好いいイメージがありませんか?
音楽を奏でて旅をしながら暮らす、ジプシーのような匂いも感じます。
また、日本で行うバスキングは、有名ミュージシャンになるための一歩とも言え、バスキング(日本だと”ストリート”かな?)を経験し、そこからステップアップしてチャンスを掴む人もいます。
路上で演奏を披露し、ファンを増やしたりプロデューサーに声をかけられたり。その動画をアップし人気が出て、一発逆転なんてことも有り得るのです。
いずれにせよ、”ストリート”(路上ライブ、ストリートパフォーマンス) という言葉に対し、ポジティブな印象が強いことは確かです。
「私、ストリートをやってるんだ!」なんて聞くと、かっこいい!って、思っちゃいますよね。
ストリートミュージシャンという肩書も、なかなかクールな言葉です。
ロンドンでも、腕慣らしや修行としてスキルアップのためにバスキングを始める人は多いです。
もちろん、筆者のような(彼らから見れば)外国人は「バスキングってかっこいいじゃん!」なんて思って、気軽に始める人だってロンドンにはたくさんいます。
しかし、バスキングという演奏スタイルは、やるにも一時的な挑戦であったり、合間の時間に趣味でやるもの。
「バスカー」という肩書を持つことは、海外では極めてネガティブに近い捉え方をされることの方が多いのです。
バスキングをやっていても、肩書きはミュージシャン。
バスキングをやることも、バスカーと名乗るのも、決して悪いわけではありませんし、好印象を持ってくれる人もいます。
ただし、イギリスのミュージシャンにとって、バスキングの経験は「当たり前」ということを忘れてはいけません。
「バスカーです」と名乗るほどにバスキングばかりやっているということは、悲しいことに「他の音楽の仕事に余裕がある」と見られている可能性も高いということ。
自ら「バスキングやってます」なんて、海外では言わない方が格好いいのです。
日本でも国外でも、ミュージシャンならば路上演奏を続けるよりか、いつかは大きなステージで演奏し、レコードのヒットを飛ばしたいと思っているのではと思います。
それでもバスキングを続けているのは、生活のため・・・と言うことになります。ワールドツアーを蹴ってバスキングをやる人は少ないかと。
また、イギリスでは、バスキングが当たり前の文化である分、そこ(バスキング)の活動に興味を示す人も少ないんですよね。
勿論、路上に流れる演奏に魅了され、その演奏をするバスカーに興味を持つ事は多いと思います。しかし、バスキングの行為自体は珍しいことでも格好いいことでも有りません。
「バスキングやってるんだぜ!(ドヤ!)」
って言ったところで、相手がイギリス人の場合は「へえ、そうなんだー!(終わり)」です。まあ、そこいらじゅうでバスカーを見ますからね。(汗)
君もやってるんだ〜という驚きの表情はされるかもしれません。
そんな背景とは裏腹に、日本ではやはり「バスキングやってます」というと、ちょっと格好いい!と言われるんですよね。むしろ「めちゃめちゃすごいじゃん!」くらいに思われます。まあ、単純に珍しいと言うだけなんですが。
筆者もバスキングはじめたばかりの頃は、日本の友達に自慢しまくっていました。(笑)
ただ、イギリスで1年、2年とバスキング生活を続けるうちに、それが決してミュージシャンのステイタスにはならないことに気づいてきたのです。
それどころか、バスキングを続ければ続けるほどに「君も大変なんだね・・・」「そろそろ路上生活は辞めなよ・・・」と、イギリス人達に同情されるまでに。(笑)
ロンドンのバスキングは極めて過酷な労働とも言えます。
詳しくは、以下の記事でご紹介していますので、ご興味ある方はご一読頂けたら幸いです。
バスキングは死活問題!生活のためにやる人が多い?!
ロンドンで現役として活動しているバスカーのほとんどは、バスキングを生業としています。
チップだけで「食べて」いるのです。
バスキングを経験したミュージシャンたちは、それぞれの音楽目標にステップアップしたり、自分の生活のペースに戻っていきます。
しかし、バスキングにどっぷりハマってしまうと、さあ大変。
それ一本の生活になってしまいます。
逆に、「バスキングでチップを得て生活したほうが成り立つから(儲かるから)」という理由でバスキング・オンリーの生活を選んでいる人もいます。
極めて稀なケースですけどね。
いずれにしても、バスキングのチップのみで生活するというのは、決して楽では有りません。
体を使って寒空の下で演奏を延々と続ける、これを最低でも4時間、多いときには6時間、8時間なんて時も普通です。
実際に、連日のコンサートや舞台のツアーや、リアルなバスキングを経験している人であればわかると思いますが、4時間〜6時間の演奏を毎日休みなく続けることは、結構しんどいです。(笑)
交友関係も疎かになります。
それも、慣れれば楽にはなってくるので、レコーディング業務を並行して受けたりもできるようになるので人間やはり努力することって大事。体もその生活に耐えれるように強く変わっていきますからね。
ですが、バスカー初心者の頃は、慣れてないわ、学校も並行して行かねばならんわ・・で、あまり人にも会いたくなくなるくらい、ぐったりした毎日でした。(筆者経験)
そんなバスカーが、ほとんどなんです。
毎日やっている仲間は、演奏中以外はわりと静かな人が多いですね。(ぐったりしてる?笑)
本業とバスキングをスパッと切り替えている人は、バスキングは程々にしています。例えば、週1回とか2回とか、短時間で趣味でやっているようです。
そのくらいの度合いでやった方が、バスキングを楽しいままで続けられますよ。
ロンドンで日々見かけるバスカー(顔が売れてるバスカー)は、それ一本!くらいで、長時間演奏を毎日やっている人もとっても多いので、もし機会があれば彼らの表情などに注目してみてください。
5人バスカーを見かけたら、笑顔でめちゃ楽しそうにしているバスカーは2人くらい、あとの3人はちょっと難しそうな顔をしているはず。(疲れているのです・・労ってあげて!)
バスキングの収入だけで生活しているバスカーは、自己アピールどうこう、プロモーション云々ではなく、生活のために路上に立っています。労働者の皆さんと同じく、肉体疲労を堪えながら黙々と働いて(演奏して)いるのです。男らしいですね!
そして、悲しいことに我々には「チップの補償額」というのは有りません。
チップが入るか、入らないか、本人にも通行人にもバスキングピッチを管理するエージェントにも、誰にもわかりません。
深刻な死活問題なのです。
ロンドンのライセンス制度
街中の至る所で、バスカーが奏でる音が聞こえてくるロンドン。
バスキングは人々にとってもごく普通で当たり前の、日常的な風景のひとつとなっています。
路上に限らず、楽器屋に入ると店員のお兄さんが入り口で演奏をしている・・・なんてことも。
また、ミュージシャンにとっては、バスキングは誰もが経験する道でもあります。
しかし、誰もが経験するとはいえども公共の場で堂々バスキングすることは非公式なのです。誰でもやっていいとは公的に認められていません。率直に言うと「やってはいけません」。
堂々とやるためには国の許可が必要となります。
筆者がバスキングの公式ライセンスを国から取得する前、イギリスで初めてバスキングにトライしたいと思った時のこと。
現地のカウンシル(役所)に相談したことがあります。役所というのがなんとも・・・筆者、意外に真面目?(笑)
その方からは「確かに非公式でやってる人も多いんだけど」と前置きした上で「公的な返事としてはNO」との事でした。「最悪、ポリスに捕まることもある」と言われましたね。
公共の場ですから、市民からの苦情が出ることだってあります。警察官が出てきて注意するというのは日本でも同じかなと思います。
しかし、中には黙認してくれている場所も僅かに存在するんですよね。
現在のようにライセンス制度が一般的になる前までは、そんな黙認してくれるような場所の情報交換こそがバスカー達の命だったようです。
バスカー達は情報を得るとそのピッチを求めて我先にとバスキングに繰り出します。
しかし、当然ながらそういった場所には必然的に多くのバスカーたちが立ち寄るようになります。
ロンドンには、生活の糧として死活問題で演奏をするバスカーも多いという事情から、次第に「縄張り争い」のようなことが増えていったのです。
トラブル対策として、国はバスキングのライセンス制度を設ける事になりました。
オーディションで公共の場で演奏を任せられるようなスキルのあるミュージシャンを厳選し、さらにその人材のヒストリーを国際チェックして安全な人間と認められた上で与えられるライセンス。それを持った限られたバスカーにのみ堂々とバスキングできるピッチを設けることになったのです。
それが、2003年の事です。
そこから次第に、いろんな街や場所でライセンスが設けられるようになり、公式な許可が下りる場所も増えていきました。
ライセンス制度は今ではごく普通のバスキングシステムとなったわけです。
ライセンス制度により、安全と場所を確保されたバスカー達ですが、それと同時に「自由である本来のバスキングスタイル」が消えたことを惜しむ声も、未だに聞くことがあります。
又、ライセンスの取得は簡単ではないので、全員が全員、やりたい場所でバスキングができなくなったのですからそこが歯痒く思う人もいることには違いありません。
そのため「バスカーの演奏を黙認される場所(非公式)」は、実は今でも存在します。
しかし、ライセンス制度を設けたことで、国はより多くのピッチを公的にバスカー達に提供できるようになり、街中には以前にも増して音楽が流れるようになりました。
その風景は国外にもアピールされるようになり、イギリス、特にロンドンでは、バスキングそのものが観光名物の一貫としても取り上げられる時もあります。
まさにイギリスの風物と言えるのが、バスキングです。
ちなみに、先ほどチラッと話した、筆者がライセンス取得する前の昔話しですが。「非公式でバスキングをしたい」とカウンシルに相談した件について。
どうなったと思いますか?
必死に頼み込んだところ、場所限定&日時限定で公式に許可を出してくれました。(なんて親切!)
おかげで捕まらずに済みました。
まさに情熱燃えたぎっていた若さゆえの行動、青春の思い出ですね!(笑)
アンダーグラウンド・バスキングのライセンス
ロンドンには、有名な赤いデッカバス以外にも、市民の移動手段として愛用されている交通機関があります。
通称Underground(アンダーグラウンド)と呼ばれる地下鉄と、Rail(鉄道)です。
これらのいずれにも、バスキングが認可されているピッチがありますが、皆さんがロンドン旅行中に、特にバスカーを目にする事が多いのは、アンダーグラウンドこと地下鉄構内の通路かと思います。
この地下鉄でのバスキングが許可制になったのが、2003年です。
ロンドンでのバスキング文化は古く、生活の糧として行うバスカーも多いため、チップが多く入る場所や、バスキングが行いやすい場所に対し、バスカー同士の争いが昔から絶えませんでした。
所謂、「縄張り争い」ですね。
*現在もライセンス無しで演奏されている場所には縄張りが存在する可能性が高いです。
バスキングと言う文化を残しながらも争いをなくすために、ライセンス制度を設けようと考えられ、生まれたこのシステム。
ライセンス発行以来、時間、場所、誰がどのピッチで演奏するなど、アンダーグラウンドでのバスキングは全てマネージメントによって管理されるようになったのです。
バスカーが時間やピッチを得るには、各自でマネージメントにブッキングしておく必要があります。直前からブッキングできますが、初期獲得は大体2週間前になります。
ブッキング自体も早いもの勝ちになるので、イメージ的には、コンサートのチケットを確保するような感覚ですね。ブッキング開始時間とともに、マネージメントサイドへアクセス集中。やっと繋がったかと思うと、人気のピッチは埋まってしまってガックリ・・・ということばかり。
良いピッチや時間帯は埋まるのも早いので、最速でアクセスできた時は心に余裕ができます。(笑)
バスキング場所によって発行ライセンスが違う
国によって定められた、アンダーグラウンドの公式ピッチで演奏できるバスキング・ライセンスの他、鉄道の指定ピッチ、公園や広場、公共施設など、場所によってライセンスが違います。
「その場所・管轄専用」となるのです。
いくらライセンスを持っているバスカーでも、自分が取得したライセンス管轄以外の場所でバスキングをやると「違法バスキング」になります。
楽器についても同じです。
ライセンス取得時に許可された楽器やパフォーマンスのスタイルでバスキングをやることが必須ですので、自分のライセンスに表記されたもの以外でパフォーマンスすれば、これもまた「規約違反」となります。
例えば、筆者がいくらライセンスを主張しようとも、トラファルガー広場で銅像パフォーマンスをしたり、新しい楽器を披露しようとある日突然フルートを奏でたりすると「違法」になります。
なので、どの場所の管轄のどのライセンスを申請するかというのも重要です。
各自のパフォーマンスによって向き不向きがあるので、場合によっては管轄場所のライセンスは自分に不利という場合もあるんですね。
詳しくは、別の記事にてご説明しますね!
ライセンス取得には厳しい審査が必要
イギリスのバスキングのライセンス取得には、申請だけでは認可されません。
記事前半で少し触れましたが、オーディションを突破して合格してOKというわけではなく、合格者はさらに「危険人物の可能性がないかどうか」というふるいにかけられます。
国からの調査、国際ポリスによるデータベースチェックを受けた上で「問題のない人物」とわかってから晴れてライセンスが発行され、公式にバスキングができるのです。
これはどういうことかというと。お分かりかと思いますが「人々が行き交う公共の場で演奏する許可」ということで、その許可を与える人間に対して「適切なる人物かどうか」という厳しい調査が必要となるのです。具体的な調査は明かされてませんが、結構細かいプライベートなところまで調査されているという噂も。
何かしら1点の曇り・不安要素でもあればNGというのは、確かに納得できます。この徹底ぶりは許可関係に厳しい英国っぽいなあって思いますね。
一見アウトロー、ワイルドサイドウォーカーなバスカー。でも、ワルそうに見えても(笑)公式バスカーたちって本当に「ごく普通の人」ばかりなんです。
ライセンスやオーディションなどについては、以下の記事で少しご紹介しています。
世界のバスキング
世界各国でも、バスキングのライセンス制度はポピュラーですよね。
日本の東京都をはじめ、アメリカNY、カナダ、オーストラリアなど、様々な国でバスキングの文化やライセンスの情報を聞くことが増えました。
イギリスとは違い、一時的にバスキング許可を出してくれる国もあるみたいなので、旅行者には有難いですよね。
筆者はイギリスでのバスキングにどっぷりだったので、これから他の国を旅してみたいなあと思うこともあります。その際はチャレンジしてみて、情報収集に頑張りたいと思います。
ちなみに、イタリア北部でバスキングをしてみた事もあるのですが、多分なのですが・・・こちらもライセンス制度があるんじゃないかなあと思っています。
イタリアの友人に聞くと「そんなもの無いよ、適当だよ」と仰ってはいたので、お伺い立てながらやってはみたのですが、想像するにライセンスあるっぽいなあという雰囲気でした。
アーケードの多い街なんかは、人道も広くて路上そのものが大きいため比較的バスキングがやりやすいです。
ただ、いつも同じ場所で演奏しているメンツが多いため、コミュニケーション(自分もやってみたいんだけど、いつどこが空いてる?)みたいな事を保ち、顔を売っておくことは大事かなと思います。イギリスでも全く同じですね。
いわゆるミュージシャンシップならぬバスカーシップこそが、縄張り争いのトラブルを回避するための秘訣です。
北部って、比較的治安が良さそう(決して良いとは言えませんが)なイメージもあるのでやりやすいのですが、やはりローマなどの南部はちょっと怖すぎてやっていませんね・・・
一瞬でチップが盗まれそうな匂いがプンプンしてます。
良い場所が見つかったら、報告いたします。(笑)
まとめ
海外のバスキングは、実は意外にもポジティブな部分ばかりではないんです。
とは言え、どんな仕事でも、ポジティブ面もあれば、ネガティブ面もあるのは同じ。
ミュージシャンや全てのパフォーマーにとって、パフォーマンスを披露する事は、何よりの喜びでもあり、そのステージが素晴らしいと思う気持ちは同じ。路上もホールも関係ありません。
海外に出るチャンスがある方は、ぜひバスキングにも挑戦してみて欲しいです。
その経験から得られるものは計り知れません。
筆者が経験したウレシイ事の数々も、ブログでご紹介できたらなあと思っています。
それではみなさま、See you soon!