日本のバスキングって?
今回は、日本の「バスキング」についてお話しを進めてみたいと思います。
「バスキング」とは、日本で言う、「ストリート(ストリートパフォーマンス)」、「路上演奏・路上ライブ」を指します。
詳しくは、以下の記事でご紹介しています。
日本の路上演奏(ストリートパフォーマンス)とは?
日本では「ストリートミュージシャン」と聞くと、ちょっとカッコイイ、そんなイメージがありますよね。
最近では、バスキングという言葉も日本では一般的になってきたので、「バスキング」なんて専門っぽいワードで聞くと、さらに「おおっ!カッコイイ!」と思うことも少なくありません。
しかし、海外でのバスキングは、あくまでミュージシャンが隙間時間で行う「お小遣い稼ぎ」であったり、日々の生活のための死活問題だったりするので、自ら「バスカーです」なんて言う人も少ないのです。
と、言うのも、外国人にとって、「バスカー!?おお、カッコイイ!」と言うイメージはそんなに無いのですよね・・・
カッコイイのはやはり、世界ツアーやレコーディングをこなす著名なアーティスト。それは日本でも同じだと思いますが(笑)、海外と日本では、バスキングを行う目的に大きな違いがあることも、そのイメージに関係していると思います。
海外のバスキングについては、こちらの記事をどうぞ!
こちらは、ロンドンのバスキングライセンス制度についての記事です。
東京都のライセンス制度
ちなみに、筆者はイギリスでのライセンスは所持していますが、遥か昔に日本国内でバスキングにトライしたこともありますが・・・
普通にその場の流れ?や勢いでストリートでやりました。実は最近の帰国時にも軽くやったこともありますが(笑)
日本のライセンスは所持していないので、ライセンス所持者としての体験レポートではありませんが、情報などから日本のバスキングについて少し探ってみたいと思います。
上記のリンクにて、ロンドンのバスキングライセンス制度の記事をご紹介しましたが、日本でも、ストリートパフォーマンスの活動をバックアップする公式システムとして、東京都がライセンス制度を取り入れています。
「ヘブンアーティスト」と呼ばれる、東京都が実施しているストリートパフォーマンス事業です。
ご存知の方も多いと思います。
募集にエントリーし、審査に合格してヘブンアーティストの所属アーティストになれば、公共施設や野外の公認場所などを演奏場所として東京都が開放してくれます。
ロンドンの制度と同じように、こちらは「都」が公認とするバスカーなんですね!
ただ、少し違うのは、ロンドンの音楽ライセンスはあくまで「音楽プラットフォーム」を目的としている事に対し、東京都のヘブンアーティストは、ポップ音楽の弾き語り奏者や楽器奏者よりも、パントマイム等のパフォーマーや、ワールドミュージック分野、民族音楽披露や、ポピュラーなバンドと何か差別化のあるアーティストなどが多い印象です。
音楽の奏者を含め、様々なパフォーマンスを取り入れてバランスを保ち、総合的なエンターテインメントの文化発信の場を提供しているんですね!
過去の歴史からも、日本と海外のルーツや原点のバスキングの色が、現代にも引き継がれているようにも見えます。
この都のライセンスを所持している筆者の知人は、幅広いジャンルを演奏するミュージシャンですが、都で行うバスキングでは、民族系音楽を演奏するバンドとして活動しています。
実際にエントリーして書類選考も通らなかった・・・と言う別の知人もいますが、純粋なポップスの弾き語りではなかなか突破も難しそうです。
ミュージシャンならば魅力的なライセンスなので、音楽部門のエントリー数はかなりの数を占めると思われるので、誰よりも特化したスキルや、個性的なパフォームが必要な狭き門と思われます。
ロンドンのライセンス制度で有名な「アンダーグラウンド・バスキング」の演奏資格を得るためには、前述の通り、「音楽ライセンス」の取得が必要であり、音楽演奏のプラットフォームで演奏する事を前提としています。
そのため、パントマイムや一芸などでは審査に通過することは大変厳しいです。
しかし、トラファルガースクエアなど、公共広場の専用ライセンスでは、主に家族向けのパフォーマーなどが中心となっているので、逆にミュージシャンのエントリーの方が突破が難しいと言われています。
日本と海外のバスキング目的の違いとは
日本のバスキングと、海外のバスキングの決定的な違いは、その目的の違いです。
(一般的に認識されているイメージや筆者が体験して思うことから以下に述べますが、東京都が管理するバスキングに関しては、全くスタイルが異なる可能性もあります。)
日本の「ストリート」や「路上演奏・路上ライブ」は、パフォーマー本人が楽しみ、音楽を表現し、純粋にオーディエンスにパフォーマンスを伝える事の目的以外に、プロモーションのために行われる事も多いです。
つまり、ライブの野外ヴァージョンですね!
より多くの人に音楽を聞いてもらい、知ってもらうために行います。
「ストリート」をやることが、本人のプロモーションとしてもキャリアとしてもおおいに役立ちます。
このスタイルは海外のバスキングではありません。
海外でプロモーションとしてバスキングが行われる場合は、イベントの許可を取りイベントとしてやる事がほとんどですので、もはやバスキングの枠ではなくなるのです。
また、ロンドンの音楽ライセンスをもってバスキングする場合、プロモーション(CDなどの物販、ビジネスカードの交換など)は禁止というルールがあります。
チップは非課税ですので、心付けを頂くのはOK、しかし、はなから営利目的とみなされるとルール違反になります。
また、バスカーの演奏は通路に音楽を提供するBGMである事が基本なので、演奏時間も1ピッチ2時間、1日に2ピッチ、計4時間の演奏が決められています。
チップをそれ以上得たい方は、6時間、8時間と演る人も多いです。
バスキングは、長時間、手を止めずにやるのが基本です。
そして、自分の担当時間が終われば、次のバスカーが訪れ、決まった時間を演奏します。
そうやって、音楽は止まる事なく1日中、街に流れているのです。
好きなセットリストで、メリハリをつけた短時間のステージパフォーマンスをするのではなく、いかに安定し、いかに邪魔にならないような心地の良い音楽を長く続けるかが重要になります。
また、路上は公共の場ですので、いくらライセンスがあろうとも通行人が優先です。
人だかりが出来てしまったり、大掛かりなプロモーションの場になってしまうと、クレーム対象になります。
バスキングは、とにかく地味に、通行人に音楽を届けることだけを目的として行なっているのです。
ですから、自分の曲を演奏し(勿論演奏してもOKです!)、自身のアピールとして物販やCDを並べたり(これはライセンス所持者はNG行為です)、自身のプロモーション的なセットを披露して客を集める事は、バスカーとして喜ばれるスタイルではないのです。バスキングという行為は、公共の場所、通行人が優先というのが基本であるため、それ以外の行為を目的とした演奏は、別の申請が必要(あるいは自己責任)になるからです。
そして、多くのバスカーが、自分のアピールではなく、日銭のため、チップを稼ぐ事を目的に行っています。
もちろん、国指定のバスキング場所以外での演奏(非ライセンスでのバスキングの場合)は、これに限りません。
ちょっとしたプロモーションとして行うイギリス人もいますが、基本的には、通行人からのイメージも、バスカー側も、「プロモーションの場」という感覚はないのです。そういった文化はあまり無いですからね・・・
ファンを集めて、声援をもらいながらのプチ・ライブ気分は味わえないですが、その代わり、チップは入りますよ!
頑張れば、1日の稼ぎとして十分なチップを得る事ができるという環境は、日本にはない魅力かもしれません。
日本ではシンデレラドリームも夢じゃない?
バスキングの目的の違いから分かるように、通行人(バスカーの演奏する音楽を聞く側)の意識も違います。
海外では、バスカーを見て、その演奏が良ければ、心付けとしてチップを置いて立ち去ります。
「チップの量は、その日の実力・評価」というほどに、その量は比例します。つまり、海外では、声援を送ったりフォローをする代わりにチップを渡すんですね!わかりやすい「Thanks」の表現なのです。
同時に「バスキング=チップ稼ぎ」という図式が成り立ち、そのバスキングがひとつの文化として根付いている国では、そのバスカーが、(その他の)音楽活動で十分に収入を得ていない段階であろうミュージシャンかもしれない、あるいは、バスキングで生活費を稼いでいるのだろうという印象を持って見ています。
下世話な言い方にはなりますが、お金でお礼を表現する方がわかりやすく、相手のためでもあるのです。
実際に、海外では若い世代だけでなく高齢のバスカーも多く、メジャーへの道への足掛かりではなく、生活の糧としてバスキングしている方も多いです。
彼らへの応援や声援はチップで送る、それが最大の好意でありリスペクト。
ミュージシャン達の暮らしをチップで支えられたら・・・という意識があるのです。
その代わり、バスカーはバスカーのまま。
バスキングを行なっている限りは、バスカーとしての演奏を「チップで」支持していくまで。
生活費として稼ぐという標準レベルを越して、音楽で富を得ようとするならば、次のステップに進まなければなりません。
しかし、日本の場合は、基本的には路上ライブは自分のアピールの場です。
プロモーションとして大きな一役を買うライブスタイルと言えます。
通行人の意識も、「応援しなきゃ」「フォローしなきゃ」となりますし、音楽関係者がその場を通れば、その演奏者がデビューを目指しているであろうことは如実にわかります。
逆に言えば、「この演奏好きだから、チップをあげなきゃ!」という意識はありません。同様に、演奏側にも「お金を稼ごう」としてバスキングをしているわけではなく、自身の存在を示すための行為です。
応援こそが全て。オーディエンスにとっても、奏者にとっても、それが一番なのです。
そして、ストリートからメジャーデビューという話しは、日本では何ら不思議ではありません。
しかし海外では、バスキングは日常風景の一つなので、バスキングからメジャーデビュー、というシンデレラストーリーの図式はありません。
バスカーが路上で受けるオファーといえば、パーティーやバーなどでの演奏や、イベントのショウ、バスカーとしてのインタビューや映像出演など、ダイレクトに収入に繋がるものばかりです。時に、レコーディングのオファーなどもありますが・・・
あくまで経験上で恐縮ですが、レコーディングに関してのダイレクトなオファーは、概ね個人の実験作品や、音楽学生の卒論の一環であることが多いです。
メジャーや仕事として成立するレコーディングに関しては、個人の活動(バスキング以外の活動)からのオファーであったり、バスキング上で声がかかったこともありますが、その場合は、その後にレコード会社での「オーディション」がありました。
つまり、路上からメジャーに直結するシンデレラドリーム的な話しは、自身の経験でも周りの知人にもほとんど聞いたことがありません。
路上で受けるオファーは、バスキングで生計している事を前提に、さらにプラスアルファの収入(仕事)をくれると言った感じでしょうか。
「デビューしてみないか!?」
みたいな、ビッグチャンス到来!のような出来事は周りでも聞いたことはないですね。
ただ、そこそこ活動しているバスカーの場合は、国内外関わらず、バスカーとしての取材関係は大変多いと思いますよ。その需要はいつの時代もあるかもしれません。
ロンドンのバスカーには、すでにプロのミュージシャンである事がほとんどという事情も関係しているかもしれませんが。
「自分のライブをやりたい」なら、日本のバスキングがおすすめ!
自分の音楽や個性を発揮し、自分だけのライブとしてバスキングを行いたいならば、日本でやる事がおすすめです。
前述の通りに、海外では、バスキングそのものが仕事、そして死活問題、時には縄張り争いなど・・・(笑)まず「自分売り込みの場」以前に、その趣旨が違うだけでなく、通行人からの見られ方の違いもあり、そして何より、通行人こそが主役というのが海外のバスキング。
自分のオリジナル曲を演奏するより、皆が知っているクラシックやスタンダードの曲を演奏したり、ロックやポップソングをカヴァーする方が喜ばれるのです。チップの入りも全然違います。
「自分を推すのではなく、通行人の邪魔にならず、通行人が心地よい音楽を」というバスカーこそが、海外では需要があります。
日本であれば、面白い!個性的!とか話題になるようなパフォーマンスが、海外では、白い目で引かれたり、邪魔扱いや怪訝な顔をされる事もあります。
そうすると精神衛生にも良くないですよね。
日本であれば、路上で演奏していれば「オリジナル曲かな?」と耳を傾けたり、どんな人かな、CD売ってるかな、フライヤーあるかな?と、バスキングしている周辺まで近づいてきてくれたりします。
通行人が立ち止まって聞いてくれるようであれば、その人達や、見にきてくれた方が見やすい20分や30分程度の時間毎で、セットリストや演出を考えると思いますし、MCもはさむ事もあるかもしれません。
トークで話しが和み、それでファン獲得になればプラスですよね!
日本のバスキングには、自分を売り込むチャンスが沢山あります。
そして、日本でバスキングをしている人を見るオーディエンスの目には、「音楽活動でメジャーになりたい」という奏者の思いが如実に伝わります。スカウトの目も期待できるかもしれません。
そのスタイルも、パフォーマーそれぞれ。カヴァーでも自作曲でも自由。日本では、通行人からのバスカーのイメージというのが固定されていないだけ、パフォーマーの表現も自由なのです。
プロモーションをしたり、自分の曲を聞いてほしいならば日本。
長時間演奏を続けて、ただただ修行したい!そう思うならば海外です。
ついでに、声援を沢山もらいたいなら日本、チップを沢山得るのは海外かな?(笑)
まとめ
今回は、日本のバスキングについて焦点を置いてお話ししました。
筆者はイギリスのバスキングが専門なので、日本で経験したのは海外渡航前に何度かあるくらいなのですが・・・
日本の路上で、アナログに淡々と演奏を続けてチップ得るような、極めて海外スタイルに近い経験は、その中でもほんの少しだけ。
あとは、環境を確保してライブパフォーマンスのノリで、短時間のセットを組み、オーディエンスに向けて行うバスキングが中心でした。
コミュニケーションも多かったですね、ライブに近い感覚ですから。
イギリスは長時間演奏を日々日々こなし、仕事として開き直ることがほとんど。
通行人との意思疎通はジェスチャーやチップであり、お互いに邪魔しないようにするのも、暗黙のルールです。
短時間の演奏でも、出会いは、日本の方が確実に多いと思います。
最後までお読み頂きありがとうございます。